企業の経営者や役員が利用する社用車=「役員車」は、経費として計上できるのか?という疑問は、法人経営において非常に重要なポイントです。車両費用は大きな支出となるため、正しく経費処理することで節税や財務管理の精度向上につながります。
しかし一方で、税務署からの指摘を受けるリスクもあるため、ルールの理解が欠かせません。この記事では、役員車を経費計上する際の具体的な方法と注意点をわかりやすく解説します。
役員車は経費になる?原則と例外
役員車は、法人の事業活動に直接関連するものであれば、経費(損金)として処理することが可能です。ただし、すべての車両費用が無条件で経費にできるわけではありません。
法人名義で購入・リースされた場合
法人が所有またはリース契約した車両で、業務に使用されるものは「車両費」「リース料」「自動車保険料」「燃料費」「整備費」などが経費として認められます。たとえば、役員が取引先との訪問や会議出席のために日常的に使う車両であれば、全額を損金処理することが原則可能です。
プライベート利用との区別が必須
一方で、業務と無関係な私用利用(通勤や家族の送迎、旅行など)を含む場合、その部分の費用は経費にできません。個人利用分については「役員給与」とみなされ、課税対象になることがあります。そのため、業務日誌や走行記録を残しておくことが推奨されます。
リースと購入、どちらが有利?
役員車を導入する際には、「購入」か「リース」かで経費処理や資金繰りへの影響が異なります。それぞれの違いを理解し、自社に合った導入方法を選びましょう。
購入の場合
車両を一括またはローンで購入した場合、原則として資産計上し、耐用年数(通常6年)に応じて減価償却費として分割して経費処理されます。車両の取得価額が高い場合、初年度に経費として計上できる額は限られるため、節税効果は徐々に表れる形になります。
リースの場合
リース契約(ファイナンスリース/オペレーティングリース)では、毎月のリース料をそのまま経費計上できるため、費用管理がシンプルになります。初期費用を抑えながら導入でき、資産計上の手続きも不要なため、税務処理の面でも扱いやすいのが特徴です。
経費にできる費用の具体例と注意点
役員車にかかる費用の中で、経費として計上可能なものと、注意が必要なものを分類しておくと、会計処理のミスを防ぐことができます。
経費計上が可能な費用例
- 車両の減価償却費(またはリース料)
- ガソリン代、電気代などの燃料費
- 法定点検費用、オイル交換などの整備費
- 自動車保険(任意・自賠責)料
- 駐車場代(会社負担の場合)
注意が必要な費用例
- 私的利用にかかるガソリン代や高速代
- 家族やプライベートでの利用分の修理・洗車代
- 高級車(目安:1,000万円超)を導入する場合は“過大役員給与”とされる恐れがあり、否認対象になるケースあり
経費処理を適切に行うためには、「業務利用であることを客観的に証明できる」記録の保存が不可欠です。走行記録表や運転日報などを作成し、業務との関連性を明確にしておきましょう。
税務調査で指摘されやすいポイント
役員車に関しては、税務署からのチェックが入ることも少なくありません。特に、法人と個人の利用境界が曖昧な場合や、車両が高額すぎる場合は注意が必要です。
よくある指摘ケース
- 実態としては私用利用が多いのに、全額を経費処理している
- 役員の家族が車を日常的に使用していた
- 会社の営業実態が少ないにも関わらず、高級車を保有している
- 走行記録や使用目的の記録が一切残っていない
こうした場合、否認された金額が「役員報酬」に加算され、追徴課税や法人税の修正申告を求められることもあります。税理士など専門家の指導のもと、書類の整備と運用ルールの明文化を行っておくことが肝心です。
社用車との違いとは?
「役員車」と「社用車」は似ているようで、実際には明確な運用ルールや税務処理の違いがあります。
運用目的の違い
- 社用車:主に営業や業務上の移動に使用され、複数の従業員が共用することも多い。
- 役員車:特定の役員(社長・取締役など)の送迎や移動のみに使用される。実質“専用車”であることが多い。
費用処理・税務上の取扱いの違い
社用車の場合、原則としてすべての維持費を経費にできます。一方、役員車は「役員個人の私的利用があるかどうか」が税務調査の焦点となるため、私用利用が含まれると給与扱い(課税対象)になる可能性があります。
役員車における社宅課税との関係
意外と知られていないのが、「役員車の提供=経済的利益の供与」とみなされる場合の社宅課税との類似性です。
どういうときに課税されるのか?
役員が会社の車を常時自由に使える状態(=土日も自宅に持ち帰って使用)で、私的利用の制限がなく、記録も残っていない場合、「経済的利益」として給与課税の対象になります。これは社宅提供と同様、「個人が会社の資産を自由に使える」ことによって所得が増えたとみなされる考え方です。
対策:私用と業務の明確な分離
- 使用目的やスケジュールを管理する運行記録の作成
- プライベート利用禁止規定の社内規程化
- 自宅ガレージ使用時の会社との契約明文化(必要に応じて)
こうした対応を取ることで、法人利用としての正当性を担保しやすくなります。
中小企業向け:役員車をうまく活用する節税対策
中小企業にとって、役員車は適切に運用すれば合法的な節税策にもなります。ただし、過剰な高級車や私用利用が疑われると否認リスクが高まります。
1. 減価償却を活用した損金算入
車両を法人で購入すれば、取得費を数年に分けて減価償却できます。事業年度の利益が多い場合、年度内に車両購入し、経費化することで法人税を抑えることが可能です。
2. 中古車や一定金額以下の車両でリスク軽減
車両価格があまりに高い(例:1,000万円以上)と、「過大な役員報酬」と判断されやすくなります。実用性を備えた500万円前後の車両や、耐用年数が短い中古車を活用することで、税務リスクと費用バランスを取ることができます。
3. 車両関連費も適切に処理
- 燃料代、保険料、駐車場代、車検・整備費などもすべて業務利用分として損金に計上可能
- ETCや給油カードを法人名義にして、私用との明確な区別を行う
まとめ
役員車を経費処理することは、法人経営における正当な節税手段のひとつですが、ルールに沿った管理が不可欠です。業務利用と私用利用の明確な区別、正確な記録、妥当な車両価格の選定など、税務署からの視点も踏まえた運用が求められます。
購入・リースの違いも理解した上で、顧問税理士等の専門家と相談しながら自社にとって最も合理的な形での導入を検討しましょう。